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第84話:PDCAからPDRへ(2014/05/07)

プロジェクトマネジメントオフィス 好川 哲人


◆マネジャーの時間管理は難しい

このコラムは割と概念的なことを書いているのですが、今回は少し、趣を変えてみたいと思います。今回取り上げたいテーマは、時間管理です。

時間管理は多くのビジネスマンにとって悩みの種になっています。スケジュールを作ってスケジュール通りにやろうとしても、なかなかうまくできません。

予想外の割り込みの仕事があるからです。特に、今はいろいろなことが目まぐるしく変わりますので、その対処に会議が非常の増えており、定期開催以外の会議が割り込み要因になることが多いようです。このことの是非はいろいろな意見があると思います。

プロジェクトは本来はこのような状態から解放し、集中して仕事をするためにするのですが、やはり会議による割り込みの問題は無視できない問題です。

この問題は職位が高くなればなるほど、顕著になってきます。プロジェクトマネジャーであれば時間の6〜7割は会議に使っていると言われますし、管理職(マネジャー)になるとほとんど何かに邪魔されずに仕事をすることはないといわれます。

そのような中で、時間を有効に使おうと時間管理に悩むわけです。たとえば、マネジャーで自分のしなくてはならない仕事をする時間を先にとってしまい、そこには仕事を入れないという時間管理をしている人がいます。しかし、現実はなかなかうまくはいかないようです。


◆問題の本質は時間管理できないことではない

この問題をどのようにとらえればいいのでしょうか?PDCAサイクルをうまく回せば解決できる問題なのでしょうか?

この問題を解決するには本質を考える必要があります。やみくもに起こっている現象を改善しようとしても難しいからです。この問題の本質は何でしょうか?本当に時間管理ができないことが問題の本質なのでしょうか?

ヘンリー・ミンツバーグという経営学者がいます。ミンツバーグは常識にとらわれず本質を突いた指摘を多くしています。その中の一つに、もう30年以上前になりますが、エスノグラフィー(観察)に基づくマネジャーの仕事の分析があります。これは何人かのマネジャーの観察を行い、その結果を分析したものですが、その中にマネジャーが30分以上、誰にも邪魔をされずに仕事ができるのは2日に1回くらいだという発見があります。これだけでもマネジャーの仕事とはどのようなものか、見当がつきます。

マネジャーの仕事は本質的に断片的で反応的な(起こった出来事に対応する)業務です。計画もできませんし、時間管理もできません。つまり、時間管理がうまくできないというのは本質的な問題ではないのです。


◆納期と質

そこで考えてみたいことは、なぜ、時間管理をしたいと思うのかです。計画通りに仕事ができれば時間を有効に活用できると思っているからですが、では、なぜ、時間を有効に活用したいのでしょうか?

おそらく多くのマネジャーは多くの成果を上げたい、言い換えると生産性を高くしたいと思うからです。

この辺りまで考えてみると、時間が本質ではないことが分かります。何かコツコツとモノを作る仕事をしているわけではありませんので、時間と成果は比例しません(モノを作る仕事でも比例しないことも科学的に証明されているようですが)。

時間が関係しないとすれば、そもそもスケジュールに意味があるのでしょうか?たとえばマネジャーの仕事の中には何か問題が起こったときに、調査をしていついつまでに報告してくれといった類の締め切りが設定される仕事はもちろんあります。というか、ほとんどがそうです。

しかし、これは反応的な仕事の納期であり、1週間のスケジュールの中に納期設定をして組み込んでおくようなものではありません。

もちろん納期(締め切り)を守ることが成果の一つであることは間違いありませんが、納期どおりに報告をしても、調査が不十分で再発しては意味がありません。製品であれば、納期も品質も要求されますが、マネジャーの場合は質の方が重要です。それは、マネジャーの仕事の性格によります。


◆部下の成果を大きくする

いまだに勘違いしている人が多いのは、マネジャーの仕事の成果は部下の成果によるものだということです。ある意味では間接的な成果です。

ところが現実には、いついつまでに報告してくれと言われると、製品の納期と同じように守ろうとします。

これが正しいかどうかは、応えることによって部下の仕事の成果を大きくできるかどうかによります。報告のために部下の時間を割き、報告書を作り、報告をしたけど、報告を受けた上位者は何も動いてくれないといったことであれば、部下の成果にとってはマイナスです。

この点を理解していれば、時間より、質を重視した活動になります。暴論かもしれませんが、社内報告が2〜3日遅れても、再発しないことの方がはるかに大切です。

では、質を上げるためにはどうすればよいのでしょうか?断片的な仕事の質を上げていくので、PDCAのような発想はそもそも無理があります。


◆PDR(Prep-Do-Review)

そこで、注目されるのはPDRという方法です。PDRはハーバードビジネススクールのリンダ・ヒルが考案したマネジメント手法で準備・実行・見直し(Prep-Do-Review)のサイクルでマネジメントを行います。

PDRが素晴らしいのはその考え方になります。PDRでは、

マネジメントとは本来、断片的で反応的な(起こった出来事に対応する)ものであり、優れたマネジャーは予想外に生じる出来事、危機、責務などが生む混乱を、管理業務の遂行に利用する(リンダ・ヒル)

と考えます。たとえば、業務が問題なく遂行されるようにすることはマネジャーの仕事です。そこで、年間の重点目標を決めて、改善を行うといった取り組みを行うわけですが、これを年間計画ではなく、問題を機会とみなして、改善を行おうという考え方です。この考え方は日本の組織になじみの方法でもあります。

そのため

(1)Prep(実行に向けた準備)
(2)Do(実行する)
(3)Review(結果の見直しと学習)

というサイクルを回します。


◆PDRの進め方

まず、最初のPrepのサイクルでは

・何かを実行する前に、必ずそのための準備をする。
・次のような質問を自分に問いかける
  これから何をしようとしているのか?
  その理由、目標、目的は?
  それをどのように行うのか?
  誰が関与するのか?
  誰が影響を受けるのか?

といったことを行います。ここで、マネジャーとしてやりたいことを目の前に起こっている問題解決を紐づけするわけです。

そして、実行します。最後に、Reviewとして

完了後、何を実際に行ったのか、何が起こったのかを考える。学んだことは何か? 次回はどのような点を変えるべきか?

について考えておきます。これで問題解決に対する振返りを行うと同時に、マネジャーとしてやりたいことに対してどのような効果があったかを把握します。


◆PDRの例

PDRの一つの例としてトラブル時の部下の指導を考えてみましょう。

マネジャーにとって部下の指導は割り込みの起こりやすい仕事の一つです。ずっと見張っているわけにはいきませんが、何か問題を起こしたら対処しなくてはなりません。そして、問題は大から小まで、いつ起こるかわかりません。

その部下が顧客の言ったことを同僚に伝え忘れて、トラブルになりました。

そこでPDRでこの問題に対処します。まず、Prepです。たとえば、

・これから何をしようとしているのか?
  顧客コミュニケーションの改善
・その理由、目標、目的は?
  顧客から言われたことを確実に関係者に伝えるようにする
・それをどのように行うのか?
  トラブルへ対応する中で、原因を究明し、部下に再発防止のルールを考えさせると同時に、メンバー全員で共有する
・誰が関与するのか
  自分、部下、メンバー
・誰が影響を受けるのか?
  メンバー、部下

そして、実行し、自分自身としても自分の業務の方法についての振返りを行い、改善をします。たとえば、

・部下のコミュニケーションへの目配りが不十分であった。これからは新しい仕組みを使って目配りするようにする

といった感じです。

このように時間管理にこだわらずに、PDRサイクルを使って一つ一つの問題を機会に変えていくという方法で仕事の質を上げることは、この時代のマネジャーにもっとも求められていることだといえます。


【参考資料】
リンダ・ヒル、ケント・ラインバック(有賀 裕子訳)「ハーバード流ボス養成講座―優れたリーダーの3要素」、日本経済新聞出版社(2012)

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著者紹介

好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「プロジェクト&イノベーション(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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