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第30話:ドラッカースタイル 番外編 〜 エグゼクティブスタイル(2010/12/27)

プロジェクトマネジメントオフィス 好川 哲人


◆エグゼクティブ問題

今回からプロジェクトスポンサー編に入ろうと思っていたが、整理していて、もう少し訴えたいことがあったので、今回はプロジェクトマネジャー編の番外編とした。

前回まで、ドラッカーの思考を

1.成果を上げる(成果を大きくするドラッカー思考)
2.価値をもたらす計画をたてる(戦略と計画に関するドラッカー思考)
3.顧客を中心に考える(顧客に関するドラッカー思考)
4.チームを動かす(チームのパフォーマンスを高めるドラッカー思考)
5.マネジメントを極める(プロジェクト品質を向上させるドラッカー思考)
6.イノベーションを実現する(技術を有効に活用するためのドラッカー思考)
7.プロフェッショナルになる(自己成長のためのドラッカー思考)

の7つの視点から紹介してきた。今回は番外編として、「エグゼクティブ」問題を取り上げてみたい。カタカナ英語でエグゼクティブという言葉は、役員を指して使われることが多いが、辞書的(定義的)な意味は、管理職員、重役、役員などを指す言葉である。

少し、脱線するが、「executive」の語源は「execute」であり、「死刑を執行する」という意味がある。今年は、裁判員制度で初の死刑判決が下されたが、人が人の生を合法的に奪う死刑ほど重い決断はない。ここから転じて、エグゼクティブは

「最後の決断・決定が出来る人」

という意味で用いられ、上記のような意味で使われるようになった。

さて、ドラッカーのエグゼクティブという言葉の定義は少し異なる。というか、「最後の決断・決定が出来る人」に近い。ドラッカーは経営者の条件の中で

今日の組織では、自らの知識や地位のゆえに組織の活動と業績に実質的な貢献を果たす知識労働者は、すべてエグゼクティブである(経営者の条件)

と指摘している。ドラッカーの考えでいえば、自分自身で地位だけではなく、専門性に基づいて意志決定し、業務を行うものはエグゼクティブだということになる。


◆エグゼクティブはあなた

著者は大学院を出て、三菱重工業という会社に就職した。プラントのコンピュータ計装を始め、いろいろな商品開発を経験したが、もっとも印象に残っているのは意外な仕事である。当時、著者が配属された長崎研究所(長崎造船所内)では、3ヶ月の新人研修があり、その中で造船の現場での実習があった。実習は指導員の指導の下で、本当に溶接をしたりする。実習の目的は夏は50度近くになる環境で仕事をして、現場で働く人たちの理解をするということだったが、そのことよりも、この人たちの判断は、人の命を預かっているということが印象に残った。もちろん、厳密にいえば、品質検査があるので最終判断者は違うのだが、彼らは実は単なる過酷な環境で働く肉体労働者ではなく、間違いなく知識労働者である。ドラッカー流の言い方をすればエグゼクティブなのだ。

考えて見れば、今の仕事は、権限がないのでものを決められないと言っている人たちは大いなる認識不足であり、知識労働者の仕事は意志決定の連続である。例えば設計という作業を考えて見るとすぐに分かる。しかも、それはプロセスを決めるのが関の山で、ほとんどの意志決定は担当者に任されている。

もっとも、権限についても誤解がある。例えば、設計は最終的に承認されるので、担当者の責任ではない(組織の責任である)と考える人も少なくない。確かにそうなのだが、それは、担当者が責任を逃れるものではない。責任者をシェアするものであって、最大の責任は担当者にある。これをもって、権限がないのに責任を取らされると感じる人もいるようだが、設計における意志決定については十分に権限が与えられている。上位者は責任を共有できても、意志決定をすることはできないからだ。

現代の組織においては専門性は極めて高く、専門性に基づく分業が進んでいる。その意味で、ほとんどの人は専門家(ドラッカーのいう知識労働者)であり、自分が専門性に基づき決めたことを組織が承認するという形をとっている。

このように考えると、新入社員であってもドラッカーのいうエグゼクティブである。そして、エグゼクティブが規律を持って活動をしていくためにマネジメントがあるというのがドラッカーの考えである。


◆今日のエグゼクティブはマネジメントの起業家の側面にコミットせよ

ただし、エグゼクティブがコミットするマネジメントに対して極めて重要な指摘をしている。

今日、企業のエグゼクティブは、体系としてのマネジメントの経営管理的側面に全面的にコミットしている。しかし、いまや起業家の側面にコミットしなくてはならない(創造する経営者)

という指摘だ。

エグゼクティブは経営管理にコミットして組織のルールに従って仕事をしていくだけでは不十分であり、起業家として、どんどん、新しいことに取り組んで行かなくてはならないと指摘している。

リーダーシップの大家であるジョン・コッターによるとマネジメントは既存の仕組みや知識で何とかすることであり、リーダーシップは仕組みを変えることであるとしている。起業家の側面にコミットするというのは、「変える」ことに他ならない。商品を変える、顧客を変える、組織を変える、仕組みを変える、ビジネスを変えるなど、企業には変えなくてはならないものが山ほどある。社員のひとりひとりのエグゼクティブとしての社員が起業家になって今の経営環境を生き残る企業になることは難しいだろう。それを引っ張っていくのが現場のリーダーであるプロジェクトマネジャーである。

今日、プロジェクトマネジャーは、体系としてのマネジメントの経営管理的側面に全面的にコミットしている。しかし、いまや起業家の側面にコミットしなくてはならない。


◆プロジェクトマネジメントの自己目的化という問題

言い換えると、マネジメントからイノベーションへという変化が必要である。特に、マネジメント偏重のもう一つの側面として、ビジネスの軽視が目立つようになってきた。ある企業の役員が「プロジェクトマネジメントが目的化しつつあるが、違うだろう」というあたり前のことを言われていた。そういう風に感じるようになってきた企業もあるということだ。

特にこの問題はプロジェクトの定義において目立つ。マネジメント上の理由で、リスキーなプロジェクトを承認しない、リスキーな受注を見合わせるといった意志決定が目立つようになっているのだ。

プロジェクトマネジメントが手段だということすら忘れているのではないかと思うことがよくある。ビジネスとオペレーションが米国企業ほど分離していないことに強みを持つ日本企業のピンチである!

この議論は来年改めてしよう。

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著者紹介

好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「プロジェクト&イノベーション(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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