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第131話:コンセプチュアルスキルでダイバーシティーを高める(2018/01/25)

プロジェクトマネジメントオフィス 好川 哲人


◆抽象は嫌われる

著者はこの5年間くらい、コンセプチュアルスキルへの取り組みを行っている。その中で、抽象的であることはよくない。ゆえに、抽象を扱うコンセプチュアルスキルは好ましいものではないと考えている人が意外と多いことに気が付いた。

経営活動に関わる人は人に依るが、現場の人は少なくとも数年前まではそうだった。最近、現状ではまずいと考え、イノベーションを目指す組織においては少しずつ変わってきているように感じるが、大勢はあまり変わらない。

ついでに述べておくと、特に顕著に感じるのは、本来ソフトウエアというコンセプチュアルな商品や製品を手掛けているIT系の企業にその傾向が強いことだ。外資系と国内系のIT企業の端的な違いはこの点だと思う。

この点については今回の議論からは外れるので、また、別の機会にしたいと思っているが、コンセプチュアルスキルがあまり好ましくないと思っていない人には特にこの記事を読んでいただければと思う。

コンセプチュアルスキルがなぜ必要なのかはこれまで何度も述べてきたが、今回は「抽象的な思考が嫌い」な人を念頭において、なぜ重要なのか、著者が何を実現したいと思っているかと併せて説明してみたい。


◆具体的に考える vs 抽象的に考える

あえて「抽象的な思考を不必要だと思っている」ではなく、「抽象的な思考が嫌い」と書いたのは、多分に感情的な問題に近いと考えているからだ。

確かに、抽象的に考えると、

・伝わりにくい(分かりにくい)
・行動に結びつかない

といった短所がある。これに対して、具体的だと、わかりやすいし、行動に直結するだから、現場のビジネスマンには具体的であってほしいという話になる。

もう一つ、具体的に考えたい理由は、問題発見に適していることだろう。抽象的に考えていたのでは、現実的に起こっている問題は見つからないので、例えば、上司が問題共有をしたくて部下に報告を求める場合には具体的に報告することを求める。もっともな話である。

一方で、具体的に考えることは短所がないわけではい。最大の短所は

・応用が利かない

ことだろう。

このような長所や短所を考え合わせると、具体的であることは、ひとつひとつに個別に対応するための方法で、問題発見に適した視点だといえる。

そして、具体的に考えること、具体的に報告することは、改善活動を行っていくために不可欠な視点なのである。


◆改善では済まない時代の思考法としての「抽象的な思考」

例えば、あるプロジェクトで作業者Aさんの作業が遅れているとしよう。

そこで、Aさんの作業を分析し、作業Xがムダだという問題を見つけ出し、作業Xを省く、あるいはちょっとやり方を変えれば解決する。これが具体的に考えれば問題が解決するという改善のイメージである。

ところが最近では、そういう単純な問題はあらかた解決し、もっと複雑な問題だけが残っている。たとえば、具体的に見えるものだけみていても、なぜ、Aの作業が遅れているのか見えないケースが圧倒的に増えている。つまり改善では対応が難しくなってきた。

さらにいえば、日本がトッププレイヤーになった2〜30年前から、改善は成長の手段にならなくなっているのだ。もちろん、現場であれ、経営であれ、改善点はいくらでもあるが、改善を実行しても競争力にならなくなってきた。つまり、技術にしろ、製品にしろ、キャッチアップの時期は終わり、改善だけでは従来通りの成長が難しくなってきたのだ。

このような背景の中で、改善以外の方法を考える必要が出てきた。言い換えると、問題を裏返しすれば解決するような単純な問題ではなく、もう少し複雑な問題解決の対応が必要になってくる。

そのような問題解決をしようとすれば、具体にこだわらず、問題を抽象化して考える方が圧倒的に有効である。問題を抽象化することによっていろいろな視点で問題を考えることが可能になるからだ。


◆抽象的に考える例

例えば、上の例で、表向きの理由は作業者Aさんの作業の遅れであるが、実際に作業Xのやり方を変えてみたが、状況は改善されなかった。

よくよく調べてみるとAに渡される中間成果物に問題(瑕疵)があることが多く、Aさんは丁寧にそれを修正していたので時間がかかっていることが分かった。すると、解決すべき問題はAさんの作業の方法やAさんの能力ではなく、「中間成果物の瑕疵を許してしまう」ことである。これが抽象化された解決すべき問題なのだ。

ここで、冒頭に述べた誤解という話が出てくる。いくら、「中間成果物の瑕疵を許さないように変える」ことが問題解決策だいっても、何をどう変えるかを具体的にしなくては行動できない(手は打てない)という話になる。その通りだ。

この抽象的な問題解決策に対して、具体的にはいくつもの案が考えられる。例えば、

・品質チェックのマニュアルを作る(制度)
・ペアで作業するようにする(プロセス)
・作業者のスキルを向上させる(人)

といったものだ。ここで重要なことは、問題を抽象的に捉えているので、()で示しているように全くカテゴリーの異なる問題解決策が生まれることだ。

このようにコンセプチュアルスキルは、抽象的に考えるスキルではなく、抽象と具体を行き来し、異なる視点のアイデアを生み出すスキルである。最終的には行動に落とし込まなくてはならない。


◆コンセプチュアルスキルでダイバーシティーが向上する

著者がコンセプチュアルスキルに取り組もうと思ったのは、このようなコンセプチュアルな問題解決が求められることが多いことが直接の理由だが、実は、当時、目的としていたのは「ダイバーシティー」の問題解決である。

今でもあまり変わっていないが、10年くらい前からダイバーシティーに関心が持たれるようになってきたが、なかなか進展していかない。この原因がコンセプチュアルスキルの低さだと考えたのだ。

上の例を見ていただくとわかると思うが、Aさんの作業が遅れているという現象が出てきたときに、Aさんのどのような問題であるかというところに視点が行くと、他のことを言ってもなかなか、受け入れられないし、理解して貰えない。

つまり、視点を一旦決めると、その視点と異なるアイデアや意見は受け入れず、その視点の中でひたすらアイデアを出そうとする。これは改善の発想だが、ダイバーシティーの阻害要因にもなっている。

従って、ダイバーシティーの問題を解決するには、抽象的な思考を織り交ぜた思考、つまりコンセプチュアルスキルが不可欠なのだ。ダイバーシティーの難しさとして日本人の思考習慣や習性がよく言われるが、まさに思考習慣として具体一色の思考習慣から抽象を織り交ぜたコンセプチュアルな思考習慣に変えていくことによってダイバーシティーが実現できるだろう。

そう考えたことが、コンセプチュアルスキルに取り組み始めた理由である。


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  【カリキュラム】                     
  1.ダイバーシティーマネジメントにおけるコンセプチュアル思考の役割
  2.ダイバーシティーマネジメントにおけるコンセプチュアル思考の活用例
  3.コンセプチュアル思考によるダイバーシティーマネジメントプロセス
   3.1 本質を見抜く
   3.2 本質を共有する
   3.3 本質と現実を行き来する
   3.4 価値観を共有する
  4.ダイバーシティーマネジメントのポイント
  5.ダイバーシティマネジメントワークショップ
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著者紹介

好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「プロジェクト&イノベーション(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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