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第18回 リスクマネジメントにおける分析と決定(2010.11.01)

プロジェクトマネジメントオフィス 好川 哲人


◆分析と決定は違う

前回は、プロジェクトライフサイクルの中でどのような意志決定が必要になってくるかを整理した。前回の記事に対して、「決定ではなく、分析ではないかという質問を戴いた。今回はこの点について述べておきたい。

このような誤解が生じやすい典型例はリスクである。どのようなリスクがあるか分析して出てくるものであって、決定するものではないと思う人が多いと思う。あるいは、分析結果=決定だと思っている人が多い。

これは半分正しく、半分正しくない。正しい部分は、リスクの候補(「不安事」)は情報収集や分析によって発見されることが多いということだ。分析の方法は、過去の事例であったり、プロジェクトのSWOT分析やステークホルダ分析(現在)であったりする。そのプロジェクトのシナリオ分析(未来)であったりする。そして、発見されたものの一部がリスクとして識別される。そして、それらについては分析され、対応が決定される。

◆不安事を無視するという「決定」

リスクマネジメントを精緻に行っていると、ちょっとした規模のプロジェクトだと数百、数千の「不安事」が発見される。不安事をリスクとして識別し、定性的なリスク分析であれば、見つかったリスクに対して、回避、軽減(予防)、受容、転嫁といった対応戦略を決めることによって、重視するリスクとそうでないものに分け、対応の負担を軽減する。

本来は識別の時点で、「無視」というのがある。受容ではないことに注意して欲しい。不安事を「リスクとして識別しないという決定」をするわけだ。そして、残った不安事がリスクとして識別される。この意志決定は結構重要である。

「リスクを取る]という言葉がある。これには、リスクを受容するケースと、そもそもリスクを無視するケースがある。リスクを無視するケースは、リスクを無視することによってメリットがある場合だ。たとえば、商品開発のプロジェクトにおいて、競合より先に市場投入するために従来の三分の二のリードタイムのプロジェクトを計画した。当然、リードタイム超過や、品質問題のリスクを抱えている。そこで、このようなリスクを無視して突っ走ることにする。この結果、開発は単純になり、それが最大のリスク対応策になる。このようにリスクを無視するという意志決定によって、リスクを押さえ込むことができるようなケースが意外とある(ただし、上位管理者が嫌うので、そのような意志決定は難しい)。

◆リスク対応策の決定

もうひとつの意志決定はリスクに対する対応の仕方である。識別されたリスクに対して、リスク対応の方法は一通りではないことはいうまでもない。同じプロジェクトで同じリスクに対して、ある人は回避すべきだと考えるが、ある人は受容すべきだと考える。つまり、意志決定しなくてはならない。

最近は研修で説明しないようにしているが、フィンクのリスクマトリクスというのがある。発生頻度と影響度を軸にとったマトリクスをリスクポートフォリオとして使い、リスク戦略を決めるというものだ。一応、もっともらしいが、ポートフォリオは所詮ポートフォリオである。例えば、ボスコンのプロダクトポートフォリオ(PPM)通りに商品戦略を事業が成功するわけではないことと全く同じで、フィンクのリスクマトリクスで各リスクへの戦略を決めてもうまくいくという保証はない。その意味で、リスクに対する正しい対処戦略の答えはないわけで、言いかえると意志決定が必要になる。

ここでも意志決定をせずに、「とにかく回避」思考停止が起こっていることが多い。

◆不作為が何をもたらすか

では、リスクマネジメントにおいて意志決定がされないとどうなるのか?いわゆる不作為が何をもたらすかという話でもある。

結論からいうとすべての負担はプロジェクトメンバー(組織の末端)にいくことになる。リスクオーナーなのだからあたり前だなどと考えないで欲しい。現場は本来しなくてよい仕事ことを山のように背負い込むことになる。

たとえば、「リソースの能力不足」というリスクを一般論だけでリスクとして識別しているケースがある。すると、リソースの低い人が入ってきても大丈夫なように作業方法を構築していく必要があり、大きな負担になる。リスクマネジメント的にいえば、このようなリスクはとりあえず、無視し、プロジェクトとの途中でもう少し、現実的なリスクになった時点で識別されるべきである。

リスクに限らず、意志決定をしないことによって、やらなくてはならないことが爆発的に増える。リスクの例から分かるように、分析や情報収集が精緻になればなるほどこの傾向が強くなる。

◆プロジェクトスポンサーの意志決定がプロジェクトをシンプルにする

特に、プロジェクトにおける意志決定は、プロジェクトスポンサーがきちんと決めるとプロジェクトは驚くほどシンプルになるケースが多い。例えば、上の問題だ。プロジェクトスポンサーがリソースの問題をすべて決めてくれると、プロジェクト側としては格段に楽になる。しかし、多くのプロジェクトスポンサーはそうはしない。責任問題になるからだ。だから、スルーして現場に任せる。

もちろん、プロジェクトマネジャーとメンバーの間でも同じ構造の問題はいくらでもある。例えば、顧客対応の問題ではプロジェクトマネジャーが決めれば話は早いのに、現場に任せるのでいろいろな意味で複雑化しているケースが多い。

マネジメントにおいて、情報収集や分析は手段であり、その目的は意志決定であるということを今一度、認識しておく必要がある。

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著者紹介

好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「プロジェクト&イノベーション(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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