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第43回 好き嫌いから始めるイノベーション(2014.07.02)

プロジェクトマネジメントオフィス 好川 哲人


◆経営者とイノベーティブ・リーダー

楠木建先生の「好き嫌いと経営」(東洋経済新報社)という本が出た。問題の立て方が楠木先生らしく斬新で、仕事には誘因(インセンティブ)と動因(ドライバー)があるという。経営者になるまでは誘因があるが、一旦経営者になってしまうと誘因はその地位を保つくらいしかなくなる。その中で経営者として行動していくにはこれをやりたいという動因が必要である。

そして動因を形成する要因は「好き嫌い」であるというもの。このロジックで、日本電産の守永さん、ユニクロの柳井さんなど、独特の経営を展開している14名の経営者に好き嫌いを中心にインタビューを行い、それぞれの経営者の動因を分析している。経営者でなくても非常に面白いので、ぜひ、読んでみてほしい。

さて、この本で取り上げられているほとんどの経営者は創業者や新規事業の立ち上げに成功した人であることを考えると、イノベーティブ・リーダーにも同じことが言えるのではないだろうか?今回はそんな文脈でこの問題を考えてみたい。


◆イノベーションに誘因はあるのか

一つ目の問題はイノベーションに誘因というのは本当にあるのかということだ。本来はあるのかもしれないが、今、日本の企業でイノベーション、イノベーションと言われている人たちが不満を持っているのは誘因がほとんどないことだろう。大抵の組織では、イノベーションより日常業務が優先される。

イノベーションが大切だ、失敗を恐れずにやろうと言いながら、成功しないとインセンティブはない。イノベーションのインセンティブはチャレンジすることの評価であるが、そのような仕組みはあまり聞かない。

ちょっと外れるが、イノベーションは個人の活動か、組織の活動かという議論が昔からあるが、未だに個人の活動だと考えている企業が少なくない。つまり、会社の中で個人が余っている時間でいろいろと考え、うまくいくなというあたりまで進んだら組織として目標の一つに取り上げていく。インセンティブどころか、認知すらしないのだ。

ただ、こういうやり方は良くないと言う話でもない。20%ドクトリンという言葉があるが、グーグルの20%ルール、3Mの15%ルールのようにイノベーションを会社で管理しない仕事として位置付けることによって成果を挙げている会社もある。

そのように考えると、この議論の本質は本当にイノベーションに誘因があるのかという点である。もちろん、経営成果が出たときにインセンティブがあるというのはイノベーションに限った話ではないので前提とするが、チャレンジにインセンティブを与えるべきかどうかというところだ。


◆イノベーションに誘因は少ない

この点については、誘因を作ることは難しいのではないかと思う。あるいは、誘因を作っても機能しない。そこで問題になるのが、動因である。そして、経営者の場合と同じようにイノベーションの動因になるのも好き嫌いではないかと思う。

もちろん、経営者が意思決定するとは違い、戦略だとか、リソースだとかの問題はあるが、グーグルや3Mのように勤務時間の20%は好きな研究や開発に使ってよいと言われたら、あなたはどう感じるだろうか?グーグルのあるマネジャーから聞いた話だが、好きなことをやるというのは意外と難しく、できない人間は採用しないそうだ。よく分かる話だ。

改善とイノベーションは違うのか、同じなのかという議論があるが、明らかに違う。改善というのは問題を見つけて解決していくことだ。つまり、何をすればよいかは予め決まっているといってよい。それを見つけることができるかどうかの問題だ。イノベーションも広い意味では同じだが、問題の選択範囲はほぼ制約がないといってよいくらい広く、何を選ぶかは取り組む人の自由である。つまり、好き嫌いの世界である。


◆好き嫌いから始める

好き嫌いで決めるというのは楠木先生の独特の言い回しなので、嫌な人は主観的、あるいは主体的に決めると読み替えて欲しい。それも違和感がある人は、「自分の目的」で決めると読み替えてほしい。

まず、ここがイノベーションの出発点になる。もちろん、経営にしても、イノベーションにしても好き嫌いだけでできるわけではない。楠木先生の本を読んでいて、名言だなあと思ったのは、好き嫌いだけで経営はできないけど、好き嫌いを抜きにして経営ができるわけではないという言葉。

イノベーションにおいてもその通りで、好きで着手したテーマも組織内で承認を得るなり、投資家を探さないと前に進めない。そこには徹底的な客観性が必要である。客観性というと正しさのようなイメージを持つ方もいると思うが、少し違う。イノベーションはやってみないと分からない。客観性というのはステークホルダーの立場でうまく行くのではないかという納得感である。


◆キーワードは「共感」

ここに良し悪しという論理的な客観性を持ち込むと失敗することが多い。とがった部分が取れてしまうからだ。ここで必要な納得性は論理的な理解ではなく、共感である。結局、ここが好き嫌いでイノベーションを進めていくためのキーになる。

つまり、イノベーティブ・リーダーは論理的なプレゼンスキルを身につけるよりは、共感を得るプレゼンスキルを身につける必要がある。

楠木 建「「好き嫌い」と経営」、東洋経済新報社(2014)


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【カリキュラム】
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著者紹介

好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「プロジェクト&イノベーション(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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