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第6回 ビジョンの力(2008.08.30)

インフルエンス・テクノロジーLLC  高嶋 成豪


◆ビジョンの力

 オリンピックでは、ソフトボール、女子サッカーの躍進にくらべ、野球、男子サッカーの低調ぶりが目立ちました。いずれもプロリーグの選手で構成されたハイレベルのチーム。年俸も何億という選手が少なくありません。それにもかかわらず、良い結果が出なかったこと、それ以上に集中を欠いたプレーが多かったことに、納得できないと感じた方も少なくないでしょう。何が原因だったのでしょうか?私には、彼らがそれぞれのプロリーグの方を気にしていたように思えます。その分、オリンピックで勝利するまでのイメージが具体化しなかったのではないか、そんな気がします。真相は将来わかるでしょうね。  それにしても、日本代表の両監督は大変です。監督にとって、選手はすべて「部下」ではありません。彼らはそれぞれのプロ球団に所属しており、球団から報酬が支払われています。監督には指揮命令権がないのに、やる気にしなければならない。これは、協力会社や派遣会社のメンバーでチームを組んでいるプロジェクトリーダーに近いものがあると思います。選手の関心がそれぞれの所属チームにあるのも、所属会社の意向に従うみなさんのチームのメンバーに、似ているのではないでしょうか?今日も「メンバーが協力会社の人たちだから、モチベーションが上がらない」というリーダーたちの愚痴を聞きました。みなさんのご苦労は、日本代表監督並み、と言えるのかもしれません(それ以上ですか?)。

 所属会社の利害を越えて、メンバーをプロジェクトに没頭させるには、それなりのカレンシーが必要です。『影響力の法則 現代組織を生き抜くバイブル』の著者、アラン・コーエンとデビッド・ブラッドフォード両博士によれば、プロジェクトではビジョンは有力なカレンシーになります。両博士が定義するビジョンとは、プロジェクトの存在理由、使命がイメージされているものです。それには、社会に貢献する、顧客に役立つといった、社会正義や、これまでにないような画期的なソリューションなどの挑戦的な課題など、ワクワクする何か含まれます。かつて本田技研が低公害車を開発していたときに、創業者本田宗一郎氏と若き技術者たちが技術的に対立したそうです。本田氏は空冷エンジンにこだわり、一方の技術者たちは水冷でなければ公害対策は進まないと考えていました。しかし、若手から見ると本田氏は恐い親父。容易に楯突くことはできない社長を説き伏せて、水冷のCVCCエンジンを市場に出します。このエンジンが初めてアメリカで低公害車として認められ、その後各社が公害対策車を発売することにつながりました。このときの若手技術者たちのスローガンは「子供たちに青い空を」でした。おそらく、彼らはこのスローガンに沿ったイメージを抱いていたのだと思います。これがビジョンです。(久米是志『無分別のすすめ』岩波アクティブ文庫)

(クライエントと会わせることで、メンバーのモチベーションを高めたJさんの場合)
 運輸機器メーカーの開発部門で、ECU(電子制御装置)開発チームのリーダーを務める Jさんは、メンバーが次々と外部から派遣されてくるのに閉口していました。公害対策や燃費改善に重要なECU。しかし開発に携わるのは協力会社からの派遣技術者です。「うちの製品の頭脳部分を、外部業者を使って開発するなんて、数年前では考えられなかったな。」それだけ製品が複雑になり、技術的に高度化しています。エレクトロニクス分野では、技術力のある協力会社に頼まざるを得ないのです。彼らはプライドもあり、たしかに技術的には信頼できそうなのですが、当初はなかなかやる気を出してはくれませんでした。メンバーは派遣元によって派閥を形成し、お互いに駆け引きしあっているようです。すぐれた技術者の能力を十分にいかせず、J氏はいらだちました。スケジュールにも遅れが目立ち始めました。そんなとき、たまたま開発部の事業所の中でユーザークリニックが開催されました。何人もの顧客が新製品を試し、メーカーに注文をつけます。J氏はふと思い立って旧知のマーケティングマネジャーK氏に頼みこみ、主要な数名のメンバーを顧客に会わせました。彼らにとって、完成品を実際に使っている顧客と直接話しをするのは初めてでした。顧客やマーケティングチームのスタッフと熱心に話した彼らに感想を聞いてみると、全員が興奮した様子で「お客様の話をうかがえて良かった。これで自分の仕事がよくわかりました。」「これまではプログラム書いている、という感じでしたが、製品がお客様にどのように使われているかがイメージでき、私もこの製品を作っているという実感がもてるようになりました。」「製品をほめてくださるので、感激しました。」など。彼らの経験は、他のメンバーにも話されました。このときから目に見えてメンバーのモチベーションが高まってきました。彼らは、お客様が完成品を使っている姿に触れることを通じて、彼らのプロジェクトのビジョンを描いていったのです。メンバー間のコミュニケー
ションも活発になってきました。ときには所属会社に関わらず、協力し合うことも見られるようになりました。このような変化を思うと、J氏は確実な手応えを感じ始めています。

 J氏は、メンバーをお客様に直接会わせることで、メンバーにビジョンを描かせました。このビジョンが魅力的に感じられ、彼らにとってのカレンシーとなったのです。メンバーは与えられた役割以上の仕事の意義を感じ、これまでよりもてる能力の発揮で応えました。ビジョンというと、将来像を描かなければならないと思われるかもしれません。そう定義されていることもあります。しかし、ビジョンの本質は、この仕事を通じてどのように役立てるか、プロジェクトの顧客や社会に対する意義にあります。J氏は顧客に会わせることで、メンバーがビジョンを描きやすくしたと言えます。

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5.ステークホルダーと良い関係を作る・WinWinの関係
 ・信頼を得る
 ・チームを結束させる
 ・(演習5)期待と要求のロールプレイ
6.まとめ
 ・(演習6)カレンシーを再考する
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著者紹介

高嶋 成豪    インフルエンス・テクノロジーLLC マネージング・パートナー

人材開発/組織開発コンサルタント。インフルエンス・テクノロジーLLC.マネージング・パートナー。ゼネラル・モーターズ、ジョンソン・エンド・ジョンソンなどで人材開発に従事。現在リーダーシップ、コミュニケーション、チームビルディング、キャリア開発のセミナーを実施し、年間約1000名の参加者にプログラムを提供している。ウィルソンラーニング・ワールドワイド社によるリーダーシッププログラム、LFG(Leading for Growth:原著はコーエン&ブラッドフォード両博士の共著“Power Up”)のマスター・トレーナー。2007年『影響力の法則 現代組織を生き抜くバイブル』(原題“Influence without Authority”)を邦訳。コーエン&ブラッドフォード両博士から指導を受け、「影響力の法則」セミナー日本語版を開発。日本で唯一の認定プロバイダー。筑波大大学院教育研究科修了 修士(カウンセリング) 日本心理学会会員 ISPI(the International Society for Performance Improvement)会員 フェリス女学院大学講師

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