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第5話:経験から学ぶ(2014.08.08)

プロジェクトマネジメントオフィス 好川 哲人


◆本当に経験から学べるのか

今回は、4番目のポイントである

(4)プロマネやエンジニアとしての過去の経験を活かす

について、振返りや、応用力など、いくつかの観点から考えてみたいと思う。
まずは、振返りと学習という観点から考えてみたい。

よく経験から学ぶというが、本当に経験から学べるのだろうか。
たとえば、2000年のIPMAのカンファレンスの論文で教訓がどの程度活用されているかを大規模な調査で調べた論文があるが、これによると

・教訓を誰かに伝える 50%
・教訓を活用する 25%

とある。つまり、教訓を実際に使っているプロジェクトは4つに1つに過ぎないというのだ。なぜか。

一つの原因は経験を情報としてそのまま取り扱っていることにあるように思う。つまり、必要なのは経験から学ぶことではなく、

経験を振り返ることで学ぶ

のだ。学ぶ鍵は振返りにある。プロジェクトマネジメントに関する学びも例外ではなく、そこにある。


◆振返りとは経験から一般的な知見を得ること

では、振返りとは何か。

振返りとは経験した現象を分析、考察し、他の状況でも活用できる一般的な知見を得ることである。経験したことを列挙する(データ化する)ことではないので、注意しておいてほしい。

たとえば、こんな事例を考えてみよう。

ソフトウエア開発プロジェクトXで仕様追加が続発し、コストが厳しくなった。このため、外注の一部を当初予定していたベンダーAから、単価の安いベンダーBに切り替えた。その結果、品質の問題が生じ、結果的にスケジュールが遅れてしまった。

この経験を振り返るというのはどういうことだろうか。

・追加仕様が発生し、コストが厳しくなった
・ベンダーB社は単価は安いが品質に問題がある
・品質問題があるとスケジュールが遅れる

といったことを経験したことになる。ここで注意しなくてはならないことは、これらの問題は、あくまでもプロジェクトXで起こったことである。


◆経験したことを分析し、関連付ける

そこでその点も含めて経験したことを分析し、みたところ以下のようなことが分かった。

仕様追加の原因は要件定義のスケジュール遅れによる見切り発車をしたことにある。要件定義の担当者Mは顧客側の担当者Nの様子から要件の取りまとめが不十分だと感じていた。しかし、納期を考えるとこれ以上要件定義を引き延ばすことはできないということで、プロジェクトマネジャーは一旦フィックスし、設計に入った。

設計の段階ではベンダーの変更は考えておらず、発注時点で多少の遅れはあったが、ベンダーAであれば対応してくれると考えていた。しかし、追加仕様が増えるにしたがって、手戻りも増え、収拾がつかなくなって、プロジェクトは赤字見通しになった。

その結果、最初に示したようなことが起こったわけだが、これから事象の関連付けをしながらいろいろなことが推測できる。たとえば

・要件確定を見切ると仕様追加が起こる
・仕様追加があると手戻りが発生し、品質問題が起こる
・単価の安いベンダーに発注しても必ずしもコストが安くなるとは限らない
・単価の安いベンダーは品質が悪い
・要件定義の担当者の判断は正しかった

といったことだ。


◆教訓を得るには

振返りとしてはここまででよいが、これはあくまでも実際に起こった事実に基づいて、「こういうケースもある」というレベルの知見である。このようなレベルの知見であっても当事者にとっては他のプロジェクトで使える情報である。

ここで考えたいのは、この情報を独り歩きさせて大丈夫なのかという点である。これらの知見には実はプロジェクトXの状況が前提として含まれており、プロジェクトXを知っている人であれば前提を理解しているので使えるのだ。

仮に前提を形式化したとする。たとえば、最初の知見に対して

「顧客のガバナンスが低い場合には、」要件確定を見切ると仕様追加が起こる

としても、前提はおそらく共有できない。人によって解釈が違うからだ。

そのように考えると、他のプロジェクトでも使える教訓にするには、前提なしに一般的に言えることは何かということを考える必要がある。そこで起こった問題の本質は何かを考えてみる。本質は分析的、論理的にだけ考えても見つからないのは、初回の述べたとおりである。

そこで、たとえば問題の本質を

問題の本質は要求仕様が膨らむかもしれないことを担当者が感じとっていたにも関わらず、プロジェクトで共有できなかったので、先手を打てなかったことにある。

だと考えると、教訓として残すべきなのは

担当者の感じるプロジェクト進行の見通しは最前線の貴重な情報であり、チームで共有する必要がある。

となる。まあ、これも厳密にいえば前提はあると思うが、上の例の前提に比べると一般性は高いだろう。

このように振返りをするときには問題の本質を見極め、その本質に対する問題解決を探すことで高い教訓を得ることができる。


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著者紹介

好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「プロジェクト&イノベーション(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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