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コミュニケーションをスムーズに進めるためには、相手の状況に対する洞察が不可欠であり、コンセプチュアルスキルが必要。これは、リーダーシップなど、ヒューマンスキルの多くのスキルについても同じことが言えます

第41話:コンセプチュアル・リーダーシップ(2018.02.13)

プロジェクトマネジメントオフィス 好川 哲人


◆リーダーシップの意味合い

いつの時代も、どんな分野でもリーダーシップが求められます。最近では、サーバントリーダーシップといった概念も登場し、その意味するところも非常に幅広いものになっています。

リーダーシップとは何かという定義は非常に難しいものですが、マネジメントに限定していえば、リーダーシップの共通項が「ビジョン」と「成果」であり、ビジネスにおける行動や創造を中心とした役割を担います。

言い換えると、目標や成果物の実現の向かうために、必要な独創性、秩序の創造、長期的な見通し、新しいことへの挑戦を行います。そのために人々を惹きつけることが必要とされます。また、組織やチームのリーダーとして、全体を先導するスキルが必要とされています。

今回のコンセプチュアルスタイル考は、リーダーシップとコンセプチュアルスキルの間にどういう関係があるかを考えてみたいと思います。


◆「優秀な管理者への道」

ロバート・L・カッツは1955年にハーバードビジネスレビューで「スキル・アプローチによる優秀な管理者への道」という論文の中で、スキルには

・テクニカルスキル(管理スキル)
・ヒューマンスキル
・コンセプチュアルスキル

の3つがあるとし、これがその後スキル体系としては広く受け入れられていますが、これは、工場で決められた手順に従って働き、それを管理する管理者のスキルだということに注意をしておいてください。その上で、3つのスキルについて簡単に説明しておきます。


◆3つのスキル

テクニカルスキルとは「業務を遂行する上で必要な知識やスキル」で、技術や専門知識が該当します。なお、カッツがこの論文を発表したのは、ピーター・ドラッカーがマネジメントについて言及する前で、管理者や経営者にとってのマネジメントはカッツモデルではテクニカルスキルに含まれるものと考えられます。

ヒューマンスキルは、「人間関係を管理するスキル」で、一般的には、リーダーシップ、コミュニケーションスキル、ファシリテーションスキル、コーチングスキル、プレゼンテーションスキル、交渉力、調整力といったスキルがあるとされます。

そしてコンセプチュアルスキルは、「周囲で起こっている事柄や状況を構造的、概念的に捉え、事柄や問題の本質を見極めるスキル」で、問題解決力、洞察力、応用力などがあげられます。

カッツのモデルについては、本連載の第1回で説明していますので、そちらをご覧ください。

【コンセプチュアルスタイル考】第1話:コンセプチュアルスキルの時代l


◆スキル間の特性と関係

カッツ体系は比較的馴染みやすいという人が多い体系ですが、スキル間にどのような関係があるのでしょうか。

カッツの定義では、この3つのスキルは組織の中での地位が上がってくるほど(カッツの論文では、監督者層<管理者層<経営者層とされている)

(1)コンセプチュアルスキルの必要性が大きくなる
(2)テクニカルスキルの必要性は小さくなる
(3)ヒューマンスキルの必要性は変わらない

というと特性があるとされますが、スキル間の関係については述べられていません。

この記事ではその部分について考えてみたいわけですが、例としてヒューマンスキルの代表ともいえるコミュニケーションスキルとコンセプチュアルスキルの関係について考えてみましょう。


◆コミュニケーションスキルとコンセプチュアルスキル

コミュニケーションスキルを

・相手へ意思を伝えることができる
・相手から意思を受け取ることができる

の2つであると考えます。そして、意思疎通の適切さがコミュニケーションスキルの高さだと考えます。

コミュニケーションスキルといえば、聞き方や話し方のうまさを真っ先に考えますが、それ以前の問題があります。それは、相手が何をほしいと思っているのかを適切に判断することです。コミュニケーションが上手だといわれる人は例外なく、この部分が優れています。なおかつ、上手に話したり、聞いたりできるわけです。

では相手が何を欲しがっているのかを知るためにはどうすればよいのかということになりますが、コミュニケーションのスキルではなく、洞察する力です。


◆高いコミュニケーションスキルの例

例えば、あなたはマネジャーで、顧客対応に困っている部下がどういう支援をしてほしいのかを知りたいとします。そこで、感じていることからとりあえず、「何か支援してほしいことがあれば言ってくれ」と伝えました。数日後に部下は、

「顧客から要求の提示がなくて困っているので、上からプレッシャーをかけてほしい」

といってきました。ここで顧客の担当者の上司にコンタクトしてそのように依頼しても事態が変わることはあまりありません。ここで必要なのは、部下がなぜそのような要望をしてくるかを知り、対応することです。そこで、何度か同席したときの様子を思い出していると、顧客の担当者から信頼されていないようで、あまり本音を聞き出せているような感じではなかったことに思い当たりました。

そこで、まずはその点を気づかせることが先決だと考えて、顧客との付き合い方についていくつかのポイントを例示して話をしてみたところ、何か思い当たる節があったらしく、少しずつ関係が改善されていきました。


◆コミュニケーションにおけるコンセプチュアルスキルの役割

この例のように、コミュニケーションをスムーズに進めるためには、相手の状況に対する洞察が不可欠で、これはコンセプチュアルスキルの領域の話です。これは、リーダーシップなど、ヒューマンスキルの多くのスキルについても同じことが言えます。

上に述べたように、カッツがスキルモデルを発表したときには、一部の人が工場で働く人がすべき手順を決め、手順通り働いていることを管理しているような働き方でしたが、今は違います。多くの場合は、それぞれの人が大きな方針のもとで何をすればよいかを判断し、実施しています。

また、テクニカルスキルについても全く同じことが言えます。コンセプチュアルスキルが高いほど、業務の成果が高くなります。エンジニアでも、総務でも、営業でも、できるといわれている人はコンセプチュアルスキルが高いという傾向があります。

話は脱線しますが、「総務部総務課 山口六平太」という総務部マンの活躍を描いたコミックスがありますが、主人公山口六平太はコンセプチュアルスキルの塊のような人物像ですし、今は会長になってしまった島耕作は係長以前からいろいろな局面でコンセプチュアルスキルを発揮しています。このようにコンセプチュアルスキルの高さと仕事の成果の関係は、コミックスで描かれて納得できるものなのです。


◆コンセプチュアル・リーダーシップ

このような背景の中で、非常にコンセプチュアルスキルが影響していると考えられるものがあります。それがリーダーシップです。

コミュニケーションスキルの例の説明を読んでいただければお分かりいただけたと思いますが、コミュニケーションを通じて相手に影響を与えてリーダーシップを発揮するためには、洞察力が不可欠ですし、相手に影響を与えるためには相手の本質がどこにあるかを見極めることが不可欠です。また、その背景には、コンセプチュアルスキルに裏付けられたヒューマンスキルやテクニカルスキルが必要です。

言い換えると

相手の存在の本質がどこにあるかを洞察し、本質に訴求することにより相手を動かすリーダーシップ

を発揮するためにはコンセプチュアルな思考が非常に有効です。我々は、これを「コンセプチュアル・リーダーシップ」と呼んでいます。

コンセプチュアル・リーダーシップを身につけたいものです。

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   5.コンセプチュアル思考で変化に対応する
    (個人ワーク、グループディスカッション)
   6.コンセプチュアル思考で不確実性に対応する
    (個人ワーク、グループディスカッション)
   7.コンセプチュアル思考を応用した活動(まとめ)
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著者紹介

好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「プロジェクト&イノベーション(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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