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画期的なビジネスモデルを構築するには、現在のやり方や収益の方法をゼロベースで考える必要があり、改善で生まれるものではない

第40話:コンセプチュアル思考の活用例〜ビジネスモデルの構築(2017.12.13)

プロジェクトマネジメントオフィス 好川 哲人


◆ビジネスモデルの構築が難しい理由

日本企業はビジネスモデルを構築するのは苦手だという企業が多いようです。その理由としてよく指摘されるのは、改善アプローチがビジネスモデルの構築にはうまく適合しないことです。画期的なビジネスモデルを構築するには、現在のやり方や収益の方法をゼロベースで考える必要がある、改善で生まれるものではないというわけです。

ただし、改善アプローチの落としどころに都合のよい状況があったという例もあります。日本企業の強いビジネスモデルはそういう経緯で構築されたものが多いように感じることも少なくありません。

こういう認識があるわけですが、もっと本質的な理由があるようにも思います。それは、ビジネスモデルには目に見える部分と同時に、目に見えない部分があるという理由です。今回はこのテーマで書いてみたいと思います。


◆ソニー損保の例

ソニー損保の展開している「走る分だけ」をウリにした自動車保険があります。一般に、自動車保険は、個々人の走行距離に関わらず、一定の保険料を集めるというものでした。これに対して、ソニー損保の保険は次年度1年の予想走行距離で保険料を決めるいわば「走る分だけ」払う方式の保険です。

ソニーは損保に関しては後発だったため、考えられた仕組みだと言われていますが、さらに、差別化を図るために、運転行動を反映した要素を入れたものにします。つまり、優良運転者の保険を安くするという仕組みも取り入れています。

これらによって

・ソニー損保の保険は優良運転者には保険料をキャッシュバックする
・優良運転者はソニー損保の保険に加入する

というビジネスモデルを作りしました。


◆テレマティックス保険

もっともこの仕組みそのものはソニー損保が考えたものではありません。原型になったのは、米国で生まれ、今や世界中の国で通常の方式の保険に迫るシェアを獲得しつつある、テレマティクス保険です。

テレマティクス保険は情報通信システムを利用し、事故を起こすリスクと保険料のギャップを狭めようとする方式の保険です。テレマティクス保険には2種類あり、走行距離に連動する保険と、運動行動に連動するものの2種類があります。

ソニー損保はテレマティクス保険を参考にして、日本の実態に合せて独自の査定方法を生み出したものです。

日本でもテレマティクス保険は徐々に普及してきていますが、「走った分だけ」払う方式、つまり、過去1年の走行距離で次年度の保険料が決まるという仕組みの保険が多いようです。このあたりにもソニー損保のビジネスモデルの卓越さがあるといえるでしょう。


◆ソニー損保の目に見えないビジネスモデル

ソニー損保の自動車保険のビジネスモデルは後発の損保としての競争力を高めるために、まだ行われていない方式の保険を提供するという意図があった訳ですが、実はこの背後に目には見えない意図がありました。

それは

・優良運転者比率が増えれば、支払い保険金が減り、コストが下がる
・優良運転者がソニー損保に乗り換えることにより、他社では非優良運転者の比率が上がり、収益が悪化し、競争力を持てる

といったたものです。これから分かりますように、実際にビジネスモデルの成功要因になっているのは、目に見える要素ではなく、目に見えない要素だといえます。


◆目に見えないビジネスモデル

では、どのようにこのようなビジネスモデルに行き着くのでしょうか。

ビジネスモデルを発想する際には、具体的なビジネスモデルがどのようなものかを考えます。この例でいえば、既にあったモデルは、走行距離に関わらず一定の保険料を集めるというものでした。

ところがこのモデルに対して、「毎日運転する人と、たまに運転する人の保険料が同じなのは不公平だ」という顧客の声がありました。この顧客の声に対応して考えられたのがテレマティクス保険でした。

ソニー損保の「走る分だけ」保険は走行距離連動型ですが、差別化を図るために運動行動に連動する要素を入れました。それが、保険は優良運転者には保険料をキャッシュバックする仕組み「やさしい運転キャッシュバック」でした。

こうして、ソニー損保の自動車保険は成功していくわけですが、実はここに至るまでにはかなりの洞察があります。


◆顧客の声の本質は何か

顧客の「毎日運転する人と、たまに運転する人の保険料が同じなのは不公平だ」という声の本質をどう解釈するかです。この解釈にはテレマティクス保険のビジネスモデルが大きな影響を与えています。

顧客の不公平だという問題の本質、あるいは「不公平を解消してほしい」という要求の本質が

・走行距離
・運動行動の質

にあると考えたのは非常に深い洞察だといえます。

ソニーの場合、既に米国でテレマティクス保険は存在しており、その意味で目に見えていたわけですが、ソニーはさらに洞察を行います。それが、市場の構造に基づくもので、

・優良運転者比率が増えれば、支払い保険金が減り、コストが下がる
・優良運転者がソニー損保に乗り換えることにより、他社では非優良運転者の比率が上がり、収益が悪化し、競争力を持てる

というものだったわけです。

このように目に見えないビジネスモデルを考案するには、洞察力が必要になってきます。もう少し広くいえば、コンセプチュアル思考が不可欠だと言ってもよいでしょう。

【参考文献】
好川 哲人「コンセプチュアル思考」、 日本経済新聞出版社(2017)

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著者紹介

好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「プロジェクト&イノベーション(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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