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コンセプチュアル思考では本質を見極めるために、5つの軸を往復する

第8話:コンセプチュアルスキルを分解する〜本質を見極めるための5つの軸(2014.07.22)

プロジェクトマネジメントオフィス 好川 哲人


◆コンセプチュアルスキルの構造

前回、抽象と具象をはじめとする、概念の世界と形象の世界を行き来することがコンセプチュアルスキルだという説明をしました。今回はもう少し、体系的な話をしてみたいと思います。

まず、PMstyleでは全体の体系として、

業務>基本行動>コンセプチュアルシンキング

という体系を考えています。たとえば、マネジャーであれば

マネジメント業務>マネジメント行動>コンセプチュアルシンキング

という構造になります。

マネジメント業務は、たとえば、戦略策定、目標設定・目標達成計画、人材育成、労務管理、他部署折衝といったものです。

これらの業務を行うためのマネジメント行動は、構想、計画、問題解決、意思決定、対人影響といったものです。ここで注意しておいてほしいことはこのようなマネジメント行動はコンセプチュアルな行動もあれば、そうでない行動もあります。

その違いを生み出すのがコンセプチュアルな思考力です。コンセプチュアルシンキングは、前回説明しましたように抽象/具象に加えて、主観/客観、直観/論理、大局/分析、長期/短期などの行き来です。

このようなコンセプチュアルシンキングが身につくことによってマネジメント行動はコンセプチュアルになります。つまり、

構想 → 創造的になる、想いが反映される
計画 → 実行しやすくなる、生産性が高くなる
問題解決 → 創造的になる、
意思決定 → 速くなる、適切になる
対人行動 → 共感を得る

と変わっていきます。そして、マネジメント行動の変化が、マネジメント業務をよい方向に変えていきます。

つまり、コンセプチュアルスキルを厳密にいうと、コンセプチュアルシンキングとコンセプチュアルシンキングに裏付けられたマネジメント行動を指しています。


◆コンセプチュアルシンキングは本質を見極めるために必要

では、次に、コンセプチュアルシンキングになぜこの5つの思考軸が必要なのかについて説明したいと思います。

まず、もう一度、ロバーツ・カッツが示したコンセプチュアルスキルの定義に戻ってみましょう。以下のようなものです。

「周囲で起こっている事柄や状況を構造的、概念的に捉え、事柄や問題の本質を見極めるスキル」

方法論はともかく、事柄や問題の本質を見極めるスキルがコンセプチュアルスキルだといっているわけですが、では本質を見極めるにはどうすればいいのでしょうか?

その前にそもそも本質とは何かということを明確にしておこうと思います。本質という言葉を辞書で引くと

・本来の性質。根本の性質。有り方。
・あるものを成り立たせている「特有の性質」
・個別の性質を超える「通有の性質」

という説明が並んでいますが、もう少し普通の言葉でいえば、目的を実現するために欠かすことのできないものが本質だと言えます。

たとえば、あるビジネスの本質というとそのビジネスが収益を上げるために欠かせないもの、本質的な問題といえば目的を達成するために逃げることができない問題です。


◆本質とは主観的なものである

ここで重要なことは、本来の性質とか、根本の性質、有り方といわれると、唯一・普遍なものだと考えがちですが、そうではありません。

一つ例を挙げてみますと、あなたは犬と猫の違いをどう区別しますか?つまり、犬や猫の本質はなんだという話です。姿形だという人もいれば、鳴き声だという人もいるかもしれません。立ち振る舞いだという人もいるでしょう。

考えてみると非常に難しいのですが、犬と猫を間違える人はまずいません。これはそれぞれの人が犬と猫の本質を把握していて、それに基づいて判断をしているわけです。

もう一つ例を挙げてみましょう。iPhoneの本質は今でも議論が尽きていません。シンプルなデザインが本質だと考える人もいれば、アプリケーションという形でハードとソフトを分けたことが本質だと考える人もいます。

このように、本質とは主観的なものです。ここをよく覚えておいてください。


◆5つの思考軸の説明

そして本質を見極めるために必要なのが5つの思考軸を使った思考です。ここで5つの思考軸をきちんと説明しておきたいと思います。

(1)抽象的/具象的
現実の現象を抽象化し、抽象的に思考(問題解決や意思決定)を行い、その結果を複数の具体的な事象や行動に落とし込むことにより、現象からは直接得にくい結論を得ることができる。

(2)主観的/客観的
自身の価値感に基づき思考を行い、その結果について第三者的な視点から妥当性を検証・調整する。この繰り返しにより、誰もが共感できる結論を得ることができる。

(3)直観的/論理的
直観的に判断をした結果に対して論理的根拠を構成し、論理で得られた結果の妥当性を直感的に判断する。この繰り返しにより、不確実性のある中で合理性のある結論を得ることができる。

(4)大局的/分析的
イメージで大雑把に物事を捉えた上で、そのイメージを定量的に説明することによりイメージを明確にする。これを繰り返しながら、イメージレベルの思考を行い、結論を出すことができる。

(5)長期的/短期的
長期スパンの思考と短期スパンの思考を相互に繰り返し、それぞれの結果を統合し、短長期のいずれにおいても最適な結論を得ることができる。


以下ではこの具体的イメージを例を使って説明してみたいと思います。


◆本質の見極め ケーススタディ

ここでは、日産自動車でプリメーラやGTRとった名車を開発した名エンジニアの水野和敏さんの話を取り上げたいと思います。水野さんは若くしてプレメーラの開発エンジニアとして実績を上げたところで、レースの監督をやれと命じられました。ショックだったそうですが、それでもやるからには負けたくないと思っていろいろと考えたそうです。

レースというと、とにかく、大きいエンジンを積んだ、軽い車が必要だというのが常識でした。レースの玄人であれば許容範囲の中で大きいエンジンを積むか、車体を軽くするかを考えます。

ところが、水野氏は実際のサーキットを見て、最高出力、最高速度で走っているところというのはそんなに多くないことに気づきました。たとえば、日本の代表的なサーキットである富士スピードウェイだと最高出力で走れるのは全体の18%に過ぎません。

すると、レースを勝つには82%を速く走れることが必要で、そのためにはエンジンの大きさが本質なのではなく、アクセルを戻して半分しか踏んでいない状態でいかにいかに速いクルマを作るかが本質であるという結論にたどり着きました。

エンジニア向けのコンセプチュアルスキル研修でこの話をすると、たいていの人は分析的に考えてこの結論(本質)に至ったと考えます。しかし、実はそうではありません。水野さんは自分の考え方で優勝をしていますので正しいと思ってしまうのですが、そもそも、この話が正しいのかという疑問があります。この話というのは

82%を早く走る車があれば、勝てる

という前提です。こうやって改めて考えてみるとこの前提が100%正しいわけではないことはすぐに分かります。すぐに思いつくのはレーサーの技術です。直線を早く走るのはレーサーの腕より車の性能に依存することが多いと思いますが、カーブはレーサーの腕に依存する部分が多いわけです。これだけでも水野さんが出した結論は仮説に過ぎないということになります。


◆5つの思考軸の使い方

さて、この前置きで本質を見極めるということはどういうことかを考えてみたいと思います。

水野さんはレースを勝つイメージとして平均速度を上げることを想定しています。そして、このイメージからどうすれば平均速度を上げるかといろいろ考えて出てきたのが82%のカーブを早く走ることでした。そして、アクセルを戻して半分しか踏んでいない状態速く走れるエンジンというスペックを決めたわけです。つまり、大局と分析という思考軸を使っていることが分かります。

ここで問題は平均速度を上げるのに、なぜ、それまで誰も考えなかった直線とカーブの距離の比率に着眼したのかです。言ってしまえばひらめきですが、これはそれまでの経験に基づく直観だったと思われます。

そして実際に距離に注目して勝つ論理を組み立ててみると、レースの中で大きな比率を占めるカーブを早く走れれば勝てるという論理ができます。つまり、直観に裏付けができたわけです。これが直観と論理の思考軸を使って、距離に注目して平均速度を上げることを考えたわけです。

ただし、平均速度を上げるためには他の方法もあります。上に述べたようにレーサーの腕に頼るという方法もあるでしょう。そのような中で、なぜ、距離の比率を選んだのかは主観的なものだと思われます。

水野さん自身がエンジニアであったことを考えると、レーサーの腕に頼らずになんとかしたいと思っていたことが推測されます。ただ、強引に押し切ったわけではなく、いろいろな意見を聞いてやり方を調整をしています。つまり、主観で考えながらも、客観的な評価を踏まえながら決めていっています。このように主観と客観の行き来で、自分のやりたい方法を客観性を持たせながら取り入れています。これは、情熱を持って監督の仕事を進めていく上では非常に重要なポイントです。

では具体的な方法をどう決めたのでしょうか?82%を速く走るという抽象的な目標を決めた上で、どのように実現するかをいろいろと考えています。たとえば、加減速のレスポンスを早くするという方法もあれば、できるだけ均一の方法で走れるようにするといった方法もあります。このように具体的な方法をいろいろと考えて、アクセルを戻して半分しか踏んでいない状態で早く走るという方法がもっともよい方法だと判断したわけです。このように抽象と具体の思考軸を行き来しながら、目標達成の最適な具体的方法に行きついたわけです。

このように水野さんは本質を見極めるに当たっては、直観と論理、大局と分析、主観と客観、抽象と具象の思考軸をうまくしていることが分かります。が、もう一点ポイントがあります。それは時間軸です。

つまり、目の前のレースを勝つことが第一の使命ですが、仮に優勝てきたとして、その優位性をシーズンを通じて保ち続ける必要があります。そのような視点から考えても、均一のスピードで走ることは有利であると考えたようです。


◆本質の見極めによってマネジメント行動はコンセプチュアルになる

以上のように5つの思考軸をうまく使えば本質を見極めることができます。そして本質を見極めることによってマネジメント行動はコンセプチュアルになっていきます。
つまり、

構想 → 本質を中心において構想を膨らませる
計画 → 本質的事柄の優先順位が高い計画を作る
問題解決 → 現象にとらわれず、本質的な問題を見極め、解決する
意思決定 → 本質に統合した意思決定を行う
対人行動 → 本質を共有しながらコミュニケーションする

といった行動になるわけです。

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    (個人ワーク、グループディスカッション)
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    (個人ワーク、グループディスカッション)
   7.コンセプチュアル思考を応用した活動(まとめ)
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著者紹介

好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「プロジェクト&イノベーション(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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