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コンセプトを使うポイントは、概念と形象の世界の行き来がチームとしてできることにある

第18回 プロジェクトの本質をチームで共有する(2018.06.12)

プロジェクトマネジメントオフィス 好川 哲人


第16回 コンセプチュアル思考によりチームを動かす

第17回 チームを動かすために必要なもの

(第17回から続く)
◆コンセプトを使うポイントはチームでの概念と形象の行き来

これまでも少し述べましたが、このようにコンセプトを使うことのポイントは概念と形象の世界の行き来がチームとしてできることにあります。たとえば、概念的な世界でコンセプトに配慮しながら目的を決めます。

これに対してその目的実現のための具体的な目標を考えるわけですが、その方法はいくつもあります。つまり、概念の世界の目的と形象の世界の目標を行き来することができるわけですが、これがチームとしてメンバーの立場を固定しない活動の基盤になります。

たとえば、「ビジネスの仕組みへの参加によるロイヤルカスタマーのコミットメントの向上」を目的としたときに、目標としては「アフェリエイトへの参加率10%のシステム化」、「配送への参加率1%のシステム化」など、さまざまなものが考えられますので、この行き来をチームで意識しながら進めていくといいでしょう。

このように考えていくと、コンセプトを作れば、そのコンセプトに基づくプロジェクトの運営をチームで行うという道も見えてきます。つまり、

(1)コンセプトから目的をチーム全員で考える
(2)目的から目標をチーム全員で考える
(3)目標の達成方法(プロジェクトアプローチ)をチーム全員で考える

という手順でプロジェクトを進めていきます。そして、プロジェクトアプローチまで落とし込むことができれば、プロジェクトマネジメント計画を作り、個々の分担を決め、個々に担当部分を実行していく形でプロジェクトを進めることができます。

このようにプロジェクトガバナンスの決定をチーム全体で行うことのメリットは、チーム全員がプロジェクトガバナンスに対して同じ理解をし、同じ感覚を持てること、そして、その延長線上に進め方に変更が必要になったときに柔軟に対応できることを挙げることができます。


◆プロジェクトの本質をチームで共有する

ということなのですが、残念ながら現実にはそんなにうまくいきません。どこに問題があるのでしょうか?もちろん、コンセプトからプロジェクトガバナンスの展開がうまくできていたら、うまく行くはずですので、要はそこがうまく行かないケースが多いのですが、どこに問題があるのかということでもあります。

多くの場合、問題はチームで「本質」を共有できていないことにあると思われます。コンセプトの議論を抜きにしてプロジェクトチームがうまく行かないのはプロジェクトの本質、つまり、目的が何か、要求が何かを共有できていないことにあることが多いと思われます。第2回で述べましたように、コンセプトを中心にしたプロジェクトガバナンスの構築は、本質をさまざまなレベルにつないでいくものだからです。

  第2回 プロジェクトにおけるコンセプトの位置づけ

実はプロジェクトマネジャーが一人でプロジェクトガバナンスの決定をするときと、チームで行う場合には、本質に対する向き合い方を変える必要があります。なぜなら、本質がどこにあるかというのは主観的なものだからです。

プロジェクトマネジャーが一人で決める場合には、ある意味で好きなように決めればいいわけです。もちろん、その場合、主観と客観の軸を行き来することは重要で、最終的にはメンバー全員が納得する必要があります。

これに対して、チームで本質を考えながら決めていく場合には、最初からさまざまな意見が出てきて、全員が納得できるまで議論しながら進めていく必要があります。結果としてプロジェクトマネジャーが考えた本質とは異なることを本質だとチームとして決める可能性があります。

このときに重要なことは、納得しやすいところに落ち込まないようにすることです。たとえば、例のプロジェクトでコンセプトから目的を決めるときに、革新的なサービスを提供するとか、競合に勝てるサービスを提供するとかいう目的を設定すると比較的納得しやすくなります。しかし、抽象度が高くなりすぎであり、また、概念の具体性にも欠けます。したがって、その次に目的から目標に落とし込んでいこうとする際に、迷走したり、適切な目標が設定できないということになってしまいがちです。


◆チームのコミュニケーションにおいてWHYを徹底的に考える

このように、プロジェクトガバナンスを決めることはあくまでも、戦略的な貢献という大局を見ながら、分析的に進めていき、その中で、適切な抽象度を探していくことが非常に大切なポイントになります。

そのためにはチームとしてどのような思考、行動を取ればよいのでしょうか。まず、個々のメンバーの意見に対して、WHYを尽くすことです。言い換えれば、チームのコミュニケーションのベースにWHYを入れることです。本質を追求するために、WHYによって概念化をしていくという方法があったことを思い出してください。

 第5回 本質を見極める3つの方法

これとまったく同じことをチーム全員で行うのです。そのためには、WHYを両方向から考えてみるといいでしょう。

つまり、「「結論 なぜならば 根拠」 は納得できるか」を考え、次に「「根拠 だから 結論」 は納得できるか」を考えてみます。その上で、両方が納得できれば、WHYは妥当だと考えることができますし、違和感があれば、WHYを考え直します。これを、行動規範として決めておくといいでしょう。

このように丁寧に、WHYをチームで考えることによって、全員で納得しながら、WHYによって本質を探していくことにより、適切な本質を見極めることができるようになります。そして、適切なプロジェクトガバナンスを決め、共有でき、メンバーそれぞれが自立的に行動できるようになります。

その際に、プロジェクトマネジャーとしてはメンバーのリーダーシップの強さをどのように高めるかという問題があります。このリーダーシップはコンセプトへの共感度が大きく影響してきます。したがって、メンバーのリーダーシップの強さを問題にするより、コンセプトへの共感度、あるいはプロジェクトガバナンスへの共感度を問題にした方がいいと考えられます。そのためにも、上で述べたチームによるガバナンス構築のプロセス、特にWHYへの納得性を作るプロセスが重要だと言えます。

このようにしてWHYをうまく活用し、チームとして本質にこだわり、コンセプトをプロジェクトガバナンスとして使うことによって、チームの全員がリーダーになり、局面局面でリーダーシップを発揮できるようなチームワークができ、逆にそれがプロジェクトをコンセプトに従って進行していくことに結びついていくことになるでしょう。


◆終わりに

本号で、コンセプト力に関する基本的なお話は終了します。本連載ではコンセプト力を高める方法を、本質、コンセプチュアル思考を中心に説明しました。
また、コンセプトを使ってプロジェクトを進める方法として、プロジェクトデザインとチームワークについてお話をしました。

そもそも、研修や勉強でコンセプト力は高められるのかという議論があります。この問題に対しては確かにそのとおりですが、だから何もしなくてよいということではありません。今回、この連載は、問題認識と基本的な知識を身につけるというスタート地点に立つという考えのもとに進めてきました。本当に実務を変えるコンセプト力を身につけるには、今回知って戴いたことを実践していくことが不可欠です。

そのため、次号からは実践的なお話にしたいと思っています。ご期待ください。

(続く)

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著者紹介

好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「プロジェクト&イノベーション(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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