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具体概念であるコンセプトからプロジェクトの目的を作り、目標、計画と展開する

第13回 コンセプト作成を前提としたプロジェクトデザイン(2018.03.23)

プロジェクトマネジメントオフィス 好川 哲人


☆これまでの記事

第1回 なぜ、ITプロジェクトは混乱するのか
第2回 プロジェクトにおけるコンセプトの位置づけ
第3回 なぜ、コンセプト力が必要なのか
第4回 プロジェクト課題の本質を見抜く
第5回 本質を見極める3つの方法
第6回 コンセプトを作る
第7回 概念の世界と形象の世界でコンセプトの作成を考える
第8回 概念の世界と形象の世界(1)
第9回 概念の世界と形象の世界(2)
第10回 概念の世界と形象の世界(3)
第11回 概念の世界と形象の世界(4)
第12回 概念の世界と形象の世界(5)

第12回から続く)

◆戦略プロジェクトにおけるコンセプトの役割

前回まで、コンセプトやコンセプト力がどのようなものかを説明してきました。本連載で使っている事例プロジェクトは以下のとおりです。
┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
┃ある通販会社で経営層から「ロイヤルカスタマー戦略のテコ入れによる収益向上┃
┃」という戦略が打ち出された。                      ┃
┃その実行の一環としてロイヤルカスタマーへの新たな働きかけをする、これまで┃
┃にはない仕組みの構築を課題としたプロジェクトを実施することになった。  ┃
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛

そのプロジェクトの中でコンセプトを、以下ように位置付けてきました。
┌─────────┬──────────────────────────┐
│プロジェクト課題 │ロイヤルカスタマー戦略のテコ入れによる収益向上   │
├─────────┼──────────────────────────┤
│課題解決コンセプト│ロイヤルカスタマーへの新たな働きかけ        │
├─────────┼──────────────────────────┤
│目的       │ビジネスの仕組みへの参加による           │
│         │      ロイヤルカスタマーのコミットメントの向上│
├─────────┼──────────────────────────┤
│目標1      │アフェリエイトへの参加率10%のシステム化     │
│目標2      │配送への参加率1%のシステム化           │
├─────────┼──────────────────────────┤
│計画       │上記目標の達成計画(プロジェクト計画)       │
└─────────┴──────────────────────────┘

上図はプロジェクトデザインと呼ばれることもあり、ビジョンや戦略を実現するプロジェクトの方法論になっています。ビジョンや戦略を実現するために解決すべき課題は何かをプロジェクト課題として明確にし、その課題解決のためにプロジェクトを作って、実行するわけです。

その際に、プロジェクトの目的から計画に至るまでに戦略との整合性が必要で、それを大局的に示すのが課題解決コンセプトでした。つまり、コンセプトには、課題解決の方法としてのプロジェクトのデザインという観点から

1)プロジェクトの目的の決定方法
2)目的を実現できたと考えることのできる目標の立て方
3)目標を達成するためのアプローチと方向性

が含意されているわけです。ここで含意と書いたのは、コンセプトにはこれらが含まれていますが、具体的な表現で示されているとは限らないからです。


◆コンセプトは概念である

まず、コンセプトは概念だということを改めて確認しておきたいと思います。そして、概念には、第2回で述べたように「抽象概念」と「具体概念」の2種類があります。

第2回 プロジェクトにおけるコンセプトの位置づけ

抽象概念とは、「人間性」とか、「さわやか」といった「ある性質や関係をその基体である個々の事物から離れてそれ自体として指示する概念」です。

具体概念とは「人間」、「さわやかな人」といった「事物のあらゆる面、他物との関連を明らかにして事物を全体的にとらえる概念」で、コンセプトとして示したいのは、より本質が明確に分かる具体概念です。

従って、コンセプトに従ってプロジェクトデザインするには、コンセプトを具体的なモノやコトに展開することが必要なのです。言い換えると、コンセプトからプロジェクトの目的を決定し、さらにそこからコンセプトに留意しながら、目標や目標達成の計画を決めることが必要になるわけです。

今回はコンセプト作成を前提としたプロジェクトデザインについて考えてみたいと思います。


◆コンセプトをプロジェクトリクエストで表現する

まず、最初にコンセプトがプロジェクトマネジメントとしてはどのように表現されるかという点を明確にしておきたいと思います。図2は一般的なプロジェクトの進め方です。これから分かりますように、プロジェクトの立上げにおいては、まず、「プロジェクトリクエスト」(と呼ばれるドキュメント)が経営層によって作られます。

プロジェクトリクエストは、文字通り、プロジェクトに要求することで、経営層がプロジェクトとして立ち上げて実現を期待を表したものを考えるといいでしょう。この中には、システムというプロジェクトの成果物が含まれますが、それだけではなく、プロジェクトによって実現したいことや目的、進め方に関する要求も含まれているのが一般的です。

プロジェクトリクエストは、プロジェクトが貢献してほしい戦略、ビジネスニーズなどのビジネス情報、プロジェクトの目的としてほしいこと、想定している予算、納期、スコープなどのプロジェクト概要、そして、プロジェクト課題、前提条件などのプロジェクト情報の3つからなります。

第4回から第6回でコンセプトの表現に最低限必要なことを示しましたが、実務的にはプロジェクトにおける課題解決コンセプトはプロジェクトリクエストとして作っていくことが多いように思います。

第4回 プロジェクト課題の本質を見抜く
第5回 本質を見極める3つの方法
第6回 コンセプトを作る

その場合、狭義には、プロジェクト情報の課題解決方針が課題解決コンセプトだと考えられますし、広い意味ではプロジェクトリクエスト全体がコンセプトだと考えることもできます。

ここで注意しておいてほしいのは、プロジェクトリクエストはあくまでも経営的な要求であり、そのままプロジェクトに受け入れられるかどうかは分からないことです。たとえば、プロジェクトの目的という項目がありますが、プロジェクトリクエストの目的は経営層の考える目的であって、最終的な目的はプロジェクトスポンサー(上位管理者)が決定し、経営層はそれを評価し、承認することになります。その場合、経営層がプロジェクトリクエスト(コンセプト)で示した以上に適切な目的である必要があります。

そのように考えると、課題解決コンセプトは経営層がプロジェクトスポンサーへの指名を予定している人と相談しながら考えて作ることになり、プロジェクトマネジャーが関与することはないということになり、本連載の流れと少し違和感があるかもしれません。この点については後で少しコメントしたいと思います。

さて、経営層からプロジェクトリクエストを受けて、今度はプロジェクトスポンサーがプロジェクトの実施を現場に指示をするために「プロジェクト憲章」を作成します。ここで初めてプロジェクトの目的とプロジェクトマネジャーが決まります。

プロジェクトマネジャーに指名された人はプロジェクトプロポーザルとして、プロジェクトの概要計画やプロジェクトマネジメント計画を作成し、組織に対して提案し、提案が承認されたらプロジェクトの実行計画を作ってプロジェクトを進めていくことになります。

これがプロジェクトマネジメント(プロジェクトガバナンス)としての流れです。課題解決のコンセプトを含むプロジェクトリクエストを作るのは経営層(あるいは、プロジェクトスポンサー)になりますが、別の人がやることもありえます。

特にITプロジェクトのような顧客主導なプロジェクトにおいては、たとえば、営業からプロジェクトの立上げ段階では組織の要員(プロジェクトスポンサーの部下)として顧客対応し、プロジェクトの立上げを担当し、プロジェクトマネジャーとして指名されるとプロジェクトマネジャーとして活動するというやり方になることも少なくないことに注意しておいてください。

このあとは、それぞれのマネジメントを誰が担当するかということについては触れないで話を進めていきます。皆さんのプロジェクト環境を考えて、適当な取り組み体制を思い浮かべながら読み進めて戴ければと思います。

(続く)


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著者紹介

好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「プロジェクト&イノベーション(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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